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今月の節税Q&A

暦年贈与

令和3年9月

Q:相続税対策として暦年贈与を行うことがよくあると聞きますが、どのような効果があるのでしょうか。

A:暦年贈与とは、個人が暦年(1月1日から12月31日までの1年間)に受贈者に財産を無償で渡し、受贈者がこれを受諾する契約をいいます。
 暦年贈与の場合、受贈者が取得した財産の価額の合計額が年間110万円以下であれば、贈与税はかかりません。なお、贈与税を支払う場合には、その申告および納税は、原則として、受贈者が、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに行うことになります。

 例えば、70歳の父親が20歳以上の子ども2人に1人当たり1,000万円、合計2,000万円を贈与するケースを考えてみましょう。
 1,000万円を1回で贈与すると、贈与税はつぎのように計算されます。

1,000万円(贈与価額)-110万円(基礎控除額)=890万円(基礎控除後の課税価格)890万円(課税価格)×30%(税率)-90万円(控除額)=177万円(贈与税額)

すなわち、贈与税は1人当たり177万円となり、2人で354万円支払う必要があります。

 上記のケースについて5年間かけて毎年1人に200万円ずつ贈与すると、どのようになるのでしょうか。贈与税はつぎのように計算されます。

200万円(贈与価額)-110万円(基礎控除額)=90万円(基礎控除後の課税価格)

90万円(課税価格)×10%(税率)=9万円(贈与税額)

 贈与税は1人当たり9万円、2人で18万円毎年支払うことになります。5年間では合計90万円(=18万円×5年)となります。したがって、暦年贈与をする場合、1,000万円を1回で贈与する場合と比べると、支払うべき贈与税は、264万円(=354万円-90万円)少なくてすむことになります。

 上記のとおり、年間110万円(暦年課税の基礎控除額)を超える部分の財産の価額に贈与税が課されます。贈与税は、「1年間でいくら贈与を受けたか」および「誰から贈与を受けたか」により決定されます。贈与を受けた金額が大きくなるほど税率は高くなります(10%~55%の累進税率)。また、祖父母や父母等の直系尊属からの贈与により取得した財産(特例贈与財産)については特例税率が適用され、税率が緩和されます。ただし、この特例税率は、その年の1月1日において20歳以上(令和4年4月1日以後は、18歳以上)の者が直系尊属から受ける贈与に限り適用されます。

 特例贈与財産を取得した場合と一般贈与財産を取得した場合とでは算出される贈与税額はどれくらい異なるのでしょうか。

[設例1] 特例贈与財産(直系尊属からの贈与)の場合
 甲は、令和3年に、祖父から現金350万円、祖母から現金250万円の贈与を受けた。

(350万円+250万円)(贈与価額)-110万円(基礎控除額)=490万円(基礎控除後の課税価格)

 490万円(課税価格)×20%(税率)-30万円(控除額)=68万円(贈与税額)

[設例2] 一般贈与財産(直系尊属以外からの贈与)の場合
 甲は、令和3年に、夫から現金600万円の贈与を受けた。

600万円(贈与価額)-110万円(基礎控除額)=490万円(基礎控除後の課税価格)

490万円(課税価格)×30%(税率)-65万円(控除額)=82万円(贈与税額)

 設例1と設例2では受贈者が贈与により取得した財産の価額はどちらも600万円(基礎控除後の課税価格は490万円)となります。しかし、設例1の場合、特例贈与財産のため、特例税率が適用されます。結果として贈与税額が68万円に抑えられ、設例2の場合と比べると、14万円(=82万円-68万円)納付税額が少なくなります。

 現金贈与以外に保険を利用した暦年贈与の方法があります。たとえば、生存給付金付終身保険・定期保険です。毎年の生存給付金支払日に被保険者が生存しているとき、生存給付金の支払回数を限度として生存給付金を受け取ることができます。保険契約者と生存給付金の受取人が異なる場合に生存給付金は受取人への贈与となります。保険会社により制度が異なるため詳細については確認する必要があります。
 また、親が子ども名義の預金口座を開設し、子どものために預金をすることがあります。この場合、口座の名義人とその口座を使用している者が異なるため、「名義預金」と判断される可能性があります。この預金が「名義預金」になることを防ぎ、親から子どもへの贈与であるとする位置づけを得るためには、親が子ども名義の口座へ預金していることを子どもへ伝え、この事実について子どもが受諾する関係が必要とされます。

詳しくは税理士法人髙木会計までお気軽にお問い合わせください。(水島)